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パリ・ブリュッセルのテロと移民の歴史、そしてアイデンティティ・クライシス(NYタイムズ紙)

2016年4月28日

パリとブリュッセルのテロを受けて全体像を把握するためにNYタイムズ紙など欧米の高級紙を中心に読みすすめればすすめるほど、社会の歪みが見えてきてテロを根絶することは社会全体で変えていくほかないんじゃないかと思えてきました。まずは、テロの原因を分析し現状把握をすることが必要です。

パリとブリュッセルのテロ犯はブリュッセルのモレンビーク地区出身のモロッコ系ベルギー人が多く、モレンビーク地区のイスラム教徒に何が起きているのかを知ることがホームグロウン・テロリズムの本質を理解する一助になります。

モレンビーク地区に住むイスラム教徒はモロッコ系とトルコ系住民がいて、両者を対比して語ることで問題の本質がわかります。両者はともにベルギー社会で差別を受けていますが、トルコ系住民は欧州に「聖戦」をしかけるほどの怒りに満ちあふれていなく、モロッコ系トルコ系社会の成り立ちを見るとどうしてそのような違いが出てしまったのかわかります。

そもそもモレンビーク地区のイスラム教徒の住民の歴史はベルギー政府が60年代に工場や鉱山で労働者を確保しようとしたことに由来します。当時のアラブ世界は、モロッコとトルコが欧州に友好的だったため、ベルギー政府は両国から移民を受け入れました。一方、その他アラブの発展途上国は、反植民地主義のため欧州に怒りを煮えたぎらせていました。

モロッコ系とトルコ系住民はブリュッセルのイスラム教徒人口の過半数を占め、世俗的です。一方、サウジアラビアやその他アラブ世界は原理主義的なイスラム教徒です。世俗的であるはずのモロッコ系住民が過激思想に走ってしまったのは、イスラム教に原因があるのではなく社会から疎外されたことで住民間に不満と差別意識が渦巻いていることがホームグロウン・テロの一因になっています。

一方、トルコ系社会も同様に差別を受けているもののコミュニティに秩序があり、その原動力になっているのがトルコ政府です。トルコ系ベルギー人が通うモスクはトルコ政府の影響下にあり、地域のリーダーやトルコ政府の予算によってトルコ国内で訓練されベルギーに派遣された宗教的指導者(Imam)のネットワークが、非行に走る若者に目を光らせています。

モロッコ系ベルギー人の最初の一団はベルベル人で、モロッコ王家に反抗的であったため、ベルベル人がベルギーに移民し始めたとき、モロッコ王家は喜んだほどでした。

トルコ住民は、ベルギーの主要な言語であるフランス語もオランダ語も話せないがゆえにトルコ人としてのアイデンティティを強固に持ち続け、一方、モロッコ系住民はフランス語が話せるがゆえにベルギー社会に溶け込もうとしてそれが叶わず、結果としてベルギーにもモロッコにもアイデンティティを感じることができないアイデンティティ・クライシスを引き起こした状態になりました。とくに若者は、ちょっとしたことでもすべてのシステムが自分たちの行く手を阻んでいると感じる者が多いです。

ベルギー社会に順応していないトルコ系住民が過激な宗教的指導者が説く、「聖戦」により救済されるという教えになびかず、フランス語圏のブリュッセルを自分の国のように感じるモロッコ系の若者が「イスラム国」のリクルーターの手に落ちてしまうのは、国民統合のパラドックスと言わざるをえません。

アラブ若者意識調査にあるようにテロは経済問題が原因というだけでなく、ベルギーが国民統合に失敗したことが問題で、モロッコ系住民がアイデンティティ・クライシスを引き起こしたことがモレンビーク地区に表れています。

自分がいる世界が苦しくてもかならず自分の世界の外に受け入れてくれる世界があり、住む世界を変えたら居心地のよい場所が見つかるはずです。そこが自分のアイデンティティを感じる場所です。

今後、多文化社会になっていくことが予想される日本でもベルギーの事例が参考になるはずで、どのように国民を統合するのかが今後の課題になっていくことでしょう。

参考文献

The New York TimesA Close Look at Brussels Offers a More Nuanced View of Radicalization

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