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縫製ロボットが発展途上国の仕事を奪う日(英エコノミスト誌)

2015年6月4日

英エコノミスト誌に技術革新が経済学の常識さえも覆してしまう可能性について書かれていました。アパレル産業の最前線について記事がありましたので紹介します。

原文はこちら。ロボットが発展途上国の仕事を奪う日(英エコノミスト誌)

縫製ロボットがアメリカで開発され来年には実用化される見通しとのこと。縫製ロボットは、アパレルの現場と製造拠点のタイムロスを縮め、さらにオーダーメイドにも対応できることが魅力。手作業による縫製でしかできなかったことが縫製ロボットの登場で変わりそうです。さらに技術革新が経済学の常識さえも覆す可能性が出てきました。英エコノミスト誌の「縫製ロボットが発展途上国の労働者から仕事を奪う日」を読み生産現場で起きつつある地殻変動がわかり驚愕しました。

縫製ロボットを求めているのはファッションブランド。アメリカ本国と製造拠点を近づけることで最新のトレンドをすぐに感じ取ることができるようになれるとのこと。実際Zaraのブランドで知られるスペインのIntidexは欧州に製造拠点を置いています。本国とアジアの生産地をデザインとサンプルが行ったり来たりするだけで数ヶ月かかってしまい店舗に陳列される頃には流行遅れになってしまうことが多く、縫製ロボットはファッションブランドにとって願ってもいない生産設備です。

潜在的な需要はそれだけなく、ナイキは顧客からのオーダーメイドに対応できるように縫製ロボットを導入してトレーナーを作ろうとしています。しかも受注してから店内で作ることを模索しているそうです。

靴メーカーも3Dプリンターを使い靴をすでに製造しています。

流行に敏感に反応できることとオーダーメイドに対応できるという点に関しては縫製ロボットに軍配があがりますが、コストの点ではアジアの工場のほうが有利です。しかし、ミルトン・フリードマンが提唱した国際経済の中心的な理論である比較優位を覆す地殻変動が起きつつあります。

現在、世界の縫製工場は、中国の賃金が上昇したため中国からバングラデシュに移転し今ではさらに賃金の安いミャンマーに縫製工場が移りつつあります。コスト的に考えると低賃金の国に労働集約型の仕事を任せたほうが生産性の面でメリットがありますが、現在それが変わりつつあります。

まず大前提である比較優位をわかりやすく説明します。

日本とアメリカを例にとります。例えば、日本で工業製品を作るのに2、農業製品には2が必要と仮定します。一方、アメリカは工業製品に8、農業製品に4必要とします。ここで一国内で生産性を比較すると、日本は工業製品1つ作るのに農業製品1作ることができます。一方、アメリカは工業製品を1つ作るのに農業製品2つ作れます。アメリカは農業製品1つ作るのに工業製品が2分の1が必要。よって日本は工業製品に比較優位を持ち、アメリカは農作物に比較優位を持ちます。日本とアメリカを比較することを絶対優位と言いますが、国際貿易においてあまり意味がなく、比較優位に基づき貿易を行うと全体として効率の良い社会が構築されます。

先進国のアパレル企業の研究開発と縫製を比較すると先進国では縫製は労働集約型なのでコスト面で研究開発に特化したほうが良いのは明らかです。一方アジアの国は賃金が安いため労働集約型の縫製が優位になります。つまり先進国はコスト面で研究開発に比較優位を持ち発展途上国は縫製に比較優位を持ちます。

縫製ロボットの登場により先進国で縫製が行うことができるようになると、比較優位の大前提が覆ってしまう可能性が出てきます。研究開発に強みを持つ先進国が、労働集約型の発展途上国の強みをも上回る労働生産性を達成する可能性が出ています。これはかなりの地殻変動になりうる動きです。

MITラボ所長の伊藤襄一氏がTEDで話していたことを思い出します。昔はモノを作るのに巨大な資本が必要でしたが、現在では昔ほどの資本がいらなく、さらに場所もとらない生産設備が開発されているとのことです。このような技術開発が発展途上国の仕事を結果として奪うことにつながるのでしょう。

英エコノミスト誌には暗にほのめかしていることがあって、減価償却費と労務費の比較をすることで、設備投資をして先進国で生産するのか賃金の安い国で生産したほうが良いのかを経営者は検討します。先進国は労務費が高いため生産設備に投資したほうが良く、賃金の安い発展途上国は設備投資をせず人を多く雇って生産するのが良いというのが製造業の常識です。縫製ロボットのコストが技術革新で驚くほど安くなる可能性があり、これが比較優位を覆す理由のようです。

縫製工場以外の分野の工場でも同じようなオートメーションが起きつつあり、アジアの縫製工場の壁にリストラリストが掲げられるのも時間の問題かもしれません。

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